ワキガ・多汗症治療では、時として医師の側から手術をお断りする場合もあります。

患者様からすると不思議に思われるかもしれませんが、実際にこうした例はしばしばあります。もちろんお断りするにはそれだけの理由があります。

医師の側から治療をお断りするのは、主に次のような場合です。

  • 症状が軽く、手術の必要がない
  • 治療をしても、患者様の満足が得られないと予測される
  • 体質等のために、治療を施すことができない
  • カウンセリングが成立しない

症状が軽く、手術の必要がない

手術をお断りするケースの中で最も多いのが、このケースです。汗もニオイも通常レベルでしかなく、特に治療を必要としない状態です。

ここ数年というもの、日本人の「消臭指向」は一段と加速しているように感じます。

体のニオィはもちろんのこと、服や髪のニオイ、部屋のニオイなど、周囲にただようあらゆるニオイを消し去ろうと躍起になっているようにも思えてしまいます。

その良し悪しは別にして、こうした風潮が必要以上にニオイに対する敏感さを助長しているようにも見受けられます。その結果、自分の体臭を必要以上に気にしてしまい「自分はワキガなのでは?」という悩みにはまりこむ方が増えているのです。

もちろん、こうしたケース一ろん、こうしたケースは単なる思い過ごしであり、治療の必要はありません。

必要のない手術を行うことは、できませんから、こうした場合には汗とニオイが標準レベルであることや手術の必要がないこと、日常のケアの方法などをお教えして、そのままお帰りいただきます。

こうしたケースは少なくありませんが、患者様ご自身にとっては「自分はワキガではないんだ」と確信できるだけでも大きな収穫でしょう。

治療をしても、患者様の満足が得られないと予測される

万全の治療を施したとしても、患者様が満足されない場合です。少々極端な例を挙げれば、患者様が神経症のような状態になってしまっている場合です。

「自分はワキガなのでは?」という不安が強まり、やがて確信に変わってしまったケースです。

汗の量も体のニオイも標準的であるにもかかわらず「私はひどく臭いのだ」と心の底から思い込み、カウンセリングに来られる方がいらっしゃるのです。

これは、自分の容姿が醜いと思いこみ、それを恐れる「醜形恐怖症」の一種で、「自己臭恐怖症」と呼ばれるものです。自分が強いニオイを発していて、周囲の人々に嫌われているに違いない、という強い思いこみにとらわれてしまった状態です。

このような方には手術は行いません。どれほどていねいに治療を施しても、決して満足されることがないからです。

体質維持ために、治療を施すことかできない

体質的な問題で手術をお断りすることがあります。

す血友病の方は手術全般ができませんし、病院で何らかの治療を受けている方は、治療内容によっては手術できない場合があります。また妊娠している方にも手術は避けていただいています。

そのほか、病院で処方されている薬や常用している市販の薬品、サプリなどによっては、一時服用を中断してからでないと手術ができない、という場合もあります。

持病や体質のため、という場合は難しいのですが、病院での治療や服用している薬のために手術ができない場合は、それらの治療なり薬の服用なりが終われば、手術は可能です。

カウンセリングが成立しない

カウンセリングを無視する方にも、手術を行うことはできません。

カウンセリングの場ではお互いにじっくりと話し合うことが大切です。医師は治療をするうえで必要なさまざまな質問をし、同時にアドバイスもします。

患者様の心身の状態や症状を調べ、ベストと思われる方法を提案します。

患者様は疑問や不安を解決しながら、治療を受けるかどうかの判断をします。そうしたやりとりを重ねる中で、お互いが信頼関係を築く。それがカウンセリングの本当の意味なのです。

自分勝手な要求ばかり突きつけ、医師の言葉にまったく耳を貸さなかったり、無理難題を押し通すような方が相手では、とても信頼関係を築くことなどできません。信頼関係を築くことができないとなると、手術はお断りするしかないのです。

ウンセリングが成り立たないというケースで問題なのは、患者様が無理な注文を押し通そうとしたり、医師の言葉に耳を貸そうとしないケースです。
たとえば、時おり「ニオイをまったくなくして、汗が一滴も出ないようにしたい」と、極端な要求をされる方がいらっしゃいます。これが無理な注文であることはお解りでしょう。

人間は生きている以上、汗はかきますし体のニオイも発します。完全な無臭・無汗という状態はあり得ないのです。
もちろんわきが治療を行えば、汗腺類をほぼ完全に取り除くことができます。

どんなに症状の重い方でも、通常レベル以下にまで引き下げることができるのです。ここまで治療できれば、ニオイを気にする必要はもうありません。

ワキガ・多汗症治療は、あくまで病的な状態から正常な状態に戻すためのものですし、ワキの汗腺類を一つ残らず完全に除去することなど、物理的にも不可能なことです。

中には「100%、ニオイも汗もなくなります」などと断言している医師もいるようですが、それは逆に誠実とは言えないのではないでしょうか。100%の結果を求める患者様には「病的なレベルのニオイや汗が治って、普通の人よりも臭わなくなるのですから、それでよろしいのではないですか」と説得しています。

それでも、「どうしても100%無臭・無汗じゃないと嫌だ」というような方は、やはり治療を受けるべきではありません。事実、そうした要求をされる患者様には、手術を行うところは少ないのではないでしょうか。